凍結胚の移送を巡るトラブルについて【弁護士が解説】

不妊治療

不妊治療を受けている中で、さまざまな事情によって病院を転院するということがありますよね。

体外受精(顕微授精)をしていて、胚(受精卵)を凍結保存している場合は、転院の際にこの凍結胚を転院先の病院に持っていこうと考えるのが通常ではないでしょうか。

転院の際にこの凍結胚を転院先の病院などに移すことを、「移送」と言います。

ところが、この移送の際に患者と病院との間でトラブルになってしまったという話を聞くことが少なくありません。

<凍結胚の移送を巡るトラブル>

不妊治療に関して、転院に伴って凍結胚を移送する際のトラブルとして、

移送をしようと思ったら現在の通院先の病院から断られてしまった

というトラブルのご相談をお受けすることがあります。

そこで、今回は、具体的に検討するべきポイントである、

凍結胚の権利は誰にあるのか

法的に移送ができない場合はあるのか

移送の際のポイント・注意事項

という点について解説していきます。


凍結胚の権利は誰にあるのか

初めに、凍結胚の移送を考える際に重要なのは、

そもそも凍結胚を自由に扱える権利(処分したり、移動したりなど)は誰にあるのか

ということです。

結論

凍結胚の権利は、治療を受けている患者(例えば夫婦双方)にあるのが原則

                   ↓

原則として、凍結胚の権利は、治療を受けている患者(夫婦やカップルなど)にあると考えられます。

ポイントは2つあります。

1つ目に、凍結胚自体は、現在の法律だと、法律上はあくまでも「物」(有体物)として扱われます

個人的には、胚(受精卵)は1つの命とも言えるのではないかという考えもあり、胚の取り扱いについては、単なる物としての扱いではなく一定の地位を与えるべきなのではないかとも考えますが、さまざまな観点からの慎重な検討が必要になるため、この点は今後十分な議論をした上で、法律上の取り扱いを定めるべきなのではないかと考えています。

ただ、あくまでも、現在の法律では「物」としての扱いのため、その物を自由に取り扱う権利は「所有権」と呼ばれる権利であり、この所有権を持っている所有者が誰か、ということがポイントになります。

2つ目に、凍結胚の所有者は誰か、という点がポイントです。

胚は男性の精子と女性の卵子が受精してできる物であることから、精子と卵子の所有者である男性と女性(例えば夫婦やカップル)が所有者であると考えるのが最も素直だと思います。

そして、所有者が2人いる場合、法律上は、この状態を「共有」と言います。

共有というのは、共有者がそれぞれその物(不可分の1個の物)に対して権利を持っている状態のことを言います。

つまり、原則として、凍結胚は不妊治療を受けている患者夫婦等)の「双方」が共有しているものであると考えられます。


法的に移送ができない場合はあるのか

上記の通り、原則として、凍結胚の権利(所有権)は、患者側が有しているので、

転院の際に凍結胚を移送したいと患者側が希望した場合は、病院側はこれを拒否することはできない

と考えられます。

ただ、これには例外があります。

1.患者夫婦が凍結胚の所有権を放棄した場合

例えば、所有権という権利は、放棄することが可能です。

患者が、所有権を放棄して病院側に処分を任せた場合は、既に所有権は失われています。

したがって、その後に患者側が凍結胚の移送の希望を出したとしても、

既に放棄した以上は、その希望は通らない

と考えられます。

2.病院側との凍結保管契約に関して保管料の未払いがある場合

また、病院と患者の間の契約により、所有権が実質的に一部制限されることが考えられます。

例えば、通常、患者は病院側に対して凍結胚を預けて凍結保管してもらっています。

これは、患者と病院との間で、胚を凍結して保管するという契約が成立しているためです。

病院は、この患者との間の契約があるから、本来患者側に所有権がある凍結胚を、病院が保管して持っていることが法律上可能になっているというわけです。

病院からこの凍結胚を返してもらおうと思ったら、この保管の契約を解約しなければなりません。

ここで、患者側は病院に対して、通常、凍結保管料を支払うという契約になっています。

そして、この凍結保管料を患者側が支払っていなかった場合、病院側は、

凍結保管料が支払われるまでは凍結胚を返還しない

という主張をすることが可能と考えられます(この主張を法律上、「同時履行の抗弁」と言います。)。

3.その他(病院側との凍結保管契約の内容によって制限を受ける場合等)

そのほかにも、病院側との間で、胚の凍結保管をすることについて「同意書」にサインをすることが通常ですが、その同意書の内容によって、所有権が制限を受ける可能性があります。

同意書の内容次第でケースバイケースとなるため、個別の言及は避けますが、同意書によって返還が制限されることに患者側が同意していた場合(例えば上記1に記載した、所有権の放棄をしている場合など)、返還が認められないという可能性も否定できません。

この点は、過去の同種事案での裁判結果などの事案の集積が十分とはいえないため、「このようになる」という確立したルールが定まっているわけではなく、最終的な結論は個別のケースごとに検討される必要があると思います。

ただ、これはあくまでも筆者の経験等も踏まえた個人的見解ですが、

基本的に凍結胚の権利は患者側にあるため、

仮に患者側が変換を制限する同意書にサインしていたとしても、

返還ができない(病院側が移送を拒否できる)ケースというのは、

裁判などでも限定的に解釈される可能性が高いのではないか

と考えます。

ただし、この点は、今後の事例の集積や、胚の取り扱いに関する法律の整備等が待たれます。


移送の際のポイント・注意事項

以上で解説してきたことも踏まえて、移送には以下の通りいくつかポイント・注意事項があります。

ポイント①

移送を希望する際は、まず、通院先の病院の移送に関する取り扱いをチェックすること

上記で解説したように、病院によって胚の移送に関する取り扱いが異なることがありますので、病院の転院などで凍結胚を移送することを考えた場合は、転院先を決める前に、まずは現在通院している病院で、移送に関する取り扱いをチェックすると良いでしょう。

具体的には、提出した胚の凍結保管に関する同意書や、病院から受け取った説明書などの書類の内容を良く確認しましょう。

もし、書類などに記載がない場合は、病院に直接尋ねてみる必要があります。

ポイント②

通院先から移送ができないと断られた場合はその理由を確認すること

万が一、移送を希望したのにも関わらず移送はできないという回答で断られてしまった場合は、移送ができない理由を具体的に確認しましょう。

上記でも解説しましたが、理由によって病院側の説明に正当性がある場合もありますので、具体的な理由とその根拠を確認する必要があります。

なお、移送に関して予め病院側が定めた手数料を支払う必要がある場合もありますので注意が必要です。

ポイント③

どうしても解決できトラブルになってしまったら弁護士に相談する

移送に関する取り扱いについて病院側の説明が曖昧な場合、病院側の拒否の根拠が無いのにも関わらず移送を断られる場合など、病院側との間で話をしても、どうしても解決できない場合は、一度弁護士に相談されることをお勧めします。

筆者の経験に基づく個人的見解では、弁護士から病院側に対して詳しい理由を尋ねて当事者双方の認識の齟齬を整理したり、あるいは弁護士から病院側に説明や凍結胚の権利関係に関する説明を丁寧に行うことで、病院との交渉で、凍結胚の移送が実現することが多い印象です。

なお、どうしても交渉で解決できない場合は裁判を検討することになります。


まとめ

以上の通り、凍結胚の移送に関しては、胚の法律上の取り扱いや権利という視点からいくつかの難しい問題があります。

そして、胚の取り扱い(と生殖補助医療分野)に関しては、まだ法律の整備が十分でなく、未知数の部分も多く、将来的に法律が整備され異なる取り扱いとなる可能性もあります。

実際に胚の移送に関してお悩みであれば、一度弁護士に個別にご相談することをお勧めいたします。

以上


【文責(筆者・事務所情報)】
〒150-0044 東京都渋谷区円山町6-7 渋谷アムフラット1階
甲リーガル法律事務所(きのえりーがるほうりつじむしょ)
代表弁護士 甲野裕大(こうのゆうだい)

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ケースごとに色々な事情があり、最終的に判断するのは裁判所であることはご留意ください。

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